「家族とスープ」
2000.8
一人暮らしを始めたばかりの頃、風邪をひいて寝込んでいたら実家から荷物が届いた。
荷物の中にはジップロックに入った冷たいスープ。
玉葱、人参、キャベツ、ジャガ芋、、、家にある野菜を丸ごと煮込んでミキサーでガーっと。
30分もかけずに作ったであろう母からのスープ。
夏の暑さと発熱の両方で食が進まない私のからだに染みわたった。
頭の先からつま先まで、内側の輪郭が露わになるようなあの感覚。
2001.3 -12
祖父が癌で闘病していた時、食べる事が日に日に困難になった。
「クリームパンが食べたいなあ。」
祖父の様子を祖母からの電話で伝え聞く。
スーパーに走り、カスタードを作りパンを焼く。
祖父が食べたいと言っているものを宅急便で送る日々。
そんな事を続ける中、特に喜ばれたものが野菜のピュレだった。
届いたピュレを、祖母は祖父のその日の体調に合わせ汁物に仕立てた。
食べること。生きること。
「旅とスープ」
2003.9 -10
学生時代、友人たちとロシア・東欧をめぐる旅に出た。
宿を確保し市場を探す事から始まるこの旅で、唯一の温かな食事と言えば決まってスープだった。
町の小さな食堂で出会ったスープ、お惣菜屋さんで買ったスープ。
キッチンのある宿では市場で手に入れた新鮮な野菜を使いスープを作った。
鍋一つでできるスープ。
市場で買った焼きたてのパンやチーズが並べば、テーブル代わりのスーツケースはたちまち豊かな食卓に様変わりした。
暖房のない部屋に湯気が立つ。
まるで囲炉裏を囲うように、心まで温まった。
旅は日常になり、生活の礎が衣食住であるという当たり前の事実を際立たせる。
最小限の豊かな食。
スープは旅を象徴するものとなった。
旅。食べること、着ること、住まうこと。
HORO Kitchenのスープをめぐる旅はここから始まった。